2010年11月28日
日曜新聞書評欄簡単レビュー:三室 勇
日曜日恒例の新聞書評欄紹介。朝毎読日経産経地方紙の6紙の中から。
日経――
李成日『中国の朝鮮半島政策』(慶応義塾大学出版会、4200円)。評者名がない短評である。本書では、92年の中国と韓国の国交樹立までが扱われている。冷戦時代、中国と北朝鮮の関係は「血で固めた友好」と呼ばれ、韓国は敵国と位置づけられていた。しかし、冷戦末期の80年代に入って徐々に修正が行われるようになる。そして国交樹立へ。その過程を丹念に追った力作と評している。その間、北朝鮮は受動的対応しかできなかったという。北朝鮮の「核開発」着手は、この流れが大きく作用しているようだ。そして北朝鮮の指導者の世代交代を迎えて、中朝間ではふたたび「血で固めた友好」が強調されたという。米中と中朝・中韓関係の今後を考える上で、90年代までの歴史を辿ることも必要となろう。
ジャスティン・フォックス『合理的市場という神話』(東洋経済新報社、3200円)、評者・奥村洋彦。経済担当ジャーナリストの書いた本書は、「生きたドラマ仕立ての経済学説史」だと評者は紹介する。少し前、「市場万能主義」といった考え方が横行していた。株価、金利に代表される金融取引の市場でも、合理的な経済主体によって決定されるといった考え方が大きな勢力を占めていた。なぜこうした市場神聖視ともいえる考え方が蔓延したのか。いまそのツケを払わされている経済危機の時代にあって、この神話の意味を問い、経済がもともと持っている不確実性にあらためて気づくことも重要であろう。
毎日――
岩村充『貨幣進化論――「成長なき時代」の通貨システム』(新潮選書、1365円)、評者・松原隆一郎。貨幣の歴史をたどった本はこれまでにもいくつかある。本書の特徴は副題に示されている「成長なき時代」の通貨システムの問題である。戦後のブレトンウッズ体制(金に裏付けられた固定相場制)ではドルを世界の基軸通貨として、ドルと金はいつでも交換できる体制が整えられたが、1971年のニクソン・ショックによるドル・金交換停止により、ブレトンウッズ体制は崩壊し、変動相場制へと移行し、現在に至っている。では現在の通貨システムは何によって維持されてきたのか。ここが本書の核になるところだ。それは「政府への信頼」と経済環境だという。前者は徴税と財政支出のバランスである。ギリシャの危機は、放漫な財政支出が招いたものである。後者は「成長とインフレ」だと著者は見立てる。物財は時間経過とともに劣化し価値は低下する。しかし、貨幣は利子により増加する。その間の負のリスクを埋めるために成長が促される。人口増(需要増加)と技術革新である。この現象自体長い歴史のなかでみると19世紀以降の出来事に過ぎないのだが、先進国では成長要因がいずれも失われつつある。日本にみられる人口減とデフレは先進国の中でも先端的である。こうした時代にどのような通貨システムが可能か。ケインズは「時の経過とともに目減りする通貨」を提案したという。この考え方は当時、空想視されたが、現在可能になったのでは、と本書結末で示唆しているという。
朝日――
黒岩比佐子『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(講談社、2520円)、評者・中島岳志。堺利彦は大逆事件に連座せずに生き延びた。赤旗事件ですでに逮捕されていたからだ。この本は大逆事件後の約10年間を堺らはどう生き延びたかを追ったものだ。その糊口をしのぐ糧に「売文社」の設立がある。今でいう「編集プロダクション」である。手紙から広告文、演説、借金代筆から翻訳までなんでも請け負ったという。「堺にはユーモアという人間的度量があった。苦境を笑いに変え、徹底的に仲間を世話した。著者はそんな堺が掲げた「売文」という語に強い抵抗精神を見いだす」(評者)。この「売文社」精神の系譜はいまどこに見出せるのだろうか。京都新聞でも取り上げている。著者、黒岩比佐子は11月17日に逝去された。52歳である。この本が遺著となった由。
2010年11月28日 10:34
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