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三室勇の「不定期刊ZUBORA」

2010年12月12日

日曜新聞書評欄簡単レビュー:三室 勇

スウェーデンTVが制作した「WikiRebels (ウィキリークスの反逆)」というドキュメンタリー番組が評判になっている。57分のドキュメンタリーでWikiLeaksのジュリアン・アサンジをはじめメンバーたちが語っている。WikiLeaksの発端からメンバーだったダニエルがアサンジと別れて新たにOpenLeaksを立ち上げようとするまでの話が語られる。このドキュメンタリーのなかで米軍ヘリのイラク市民に向けた銃撃場面がある。それは傷ついた子どもたちをワゴン車で運び出そうとした人びとが映し出されており、その後、車もろとも爆撃し、そこにいた人たちすべてを殺戮する信じられない場面がある。映像はそのあと、子どもを殺された母親のインタビューを撮っており、母親の深い怒りの顔が忘れられない。ぜひこのドキュメンタリーに日本語字幕をつけて欲しいと思う。これはYoutubeにも出ている。

 

日曜日恒例の新聞書評欄紹介。朝毎読日経産経地方紙の6紙の中から。

 

日経――

トニー・ジャット『荒廃する世界のなかで―これからの「社会民主主義」を語ろう』(みすず書房、2800円)、評者・宇野重規。著者は今年亡くなったイギリスの歴史家。『ヨーロッパ戦後史』などの著者がある。難病の床で若者たちに向けて書かれた遺言的な著作だという。新自由主義、市場原理主義を容赦なく批判し、しかし、第二次大戦後の荒廃のなかから生まれた福祉国家像が、今度は福祉が当たり前になった世代から新自由主義を迎え入れる動きが出たことを考察する。そして最後に選ぶべきは社会民主主義だと語る。その理念は形骸化してきているが、しかし、社会主義と民主主義の妥協である社会民主主義を新たな物語として語り出そうと呼びかける。そこにしか未来はないのではないか。手垢の付いた社会民主主義をどう再生させるか。こころに響く呼びかけだと思う。「世論を鍛え直し、人々が自らの社会の価値を語る空間を再建すること。次世代に向けたジャットの遺言を、我々は如何に受け止めるべきだろうか」と評者は結んでいる。

 

毎日は2冊の書評ほかは、2010年、この3冊の特集している。

ポール・ヴェーヌ『私たちの世界が「キリスト教」になったとき』(岩波書店、3675円)、評者・木村凌二。評者はこう紹介する。「本書の主張は衝撃的である。「古代世界のキリスト教化は、コンスタンティヌスというひとりの個人を起爆剤とした革命であり、その動機はひたすら宗教的なものであった」という」。そこには歴史的必然も不可避もなにもない。ひとりの人間の思いのなかで、その後のキリスト教世界がつくられたというわけだ。それもローマ史学の碩学がいうことに驚きがある。ではロシア革命はどうか。レーニンとトロツキーこのふたりの信念が動因となったということか。新しい時代を切り開く人間は確かに明晰な意志をもって現れるということは理解できる。しかし、それは時代精神のくぐもりのなかから確かなベクトルを見つけ出すことができた人物だったはずだ。しかし、面白そうな本である。

 

植村和秀『昭和の思想』(講談社選書メチエ、1575円)、評者・藤森照信。建築家の評者は、戦前のフランス帰りのリベラリストの建築家が帰国すると、国粋主義者に変貌する。それはなぜかと疑問に思っていたという。そういえば西田幾多郎ら京都学派もそうだ。その流をつくったのが海軍省調査部にいた高木惣吉だったという話で始まる。昭和十年代、陸軍の総力戦路線に対抗する新しい海軍の世界観を必要としていた。高木は西田を訪ねる。その新しい世界観を西田に委ねようと考える。西田には並の哲学者にないアブナイ魅力があったのだという。その魅力に引きつけられ群がる若い京都の俊才たちが出てくる。かれらはこぞって新しい世界観を語り出す。まさに「大東亜共栄圏」であり、「世界史的立場」であり、「近代の超克」である。しかし、高木ら海軍は陸軍の力に及ばない。結局、陸軍の総力戦思想で悲惨な終結を迎えることになるわけだ。ここにも歴史を動かそうとする個人の思いが動因となって、それが世界の動きとなろうとする一面が伺える。

 

京都――

李清俊『あなたたちの天国』(みすず書房、3990円)、評者・藤野豊。朴政権下の1976年に書かれた韓国作家、李清俊の小説である。舞台は1960年代の国立小鹿島(ソロクト)病院である。日本統治時代、ハンセン病強制隔離施設、小鹿島更生園として使われていたところだ。ここに新しい院長が赴任してくるところから話が始まる。軍服を着て拳銃を携える院長は、この病院を「患者らしい患者にとってのみ天国たりうる天国、患者としての不幸をすすんで受け容れる諦念があってこそ初めて天国たりうる天国」にしようと語る。「幸せな収容所」といったこの施設と入院者たちはどうたたかうのか。朴政権下の時代を感じさせる小説である。

 

2010年12月12日 11:14

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